原田の共同研究「人間中心の社会共創デザインを可能とするデジタル社会実験基盤技術の開発」が科学技術振興機構 戦略的な研究開発の推進 未来社会創造事業 本格研究に採択されました
Published in 科学技術振興機構 戦略的な研究開発の推進 未来社会創造事業 本格研究, 2023
社会・都市課題に対する政策の効果を事前に評価するため、政府や自治体では多大なコストと長い期間をかけてリアルな社会実験を実施しています。しかし、政策評価の精度が低いために事業投資へのリスクが高く、また短期的視点の評価しかできないという課題がありました。さらに政策立案プロセスに関係するステークホルダーを積極的に関与させる技術が不十分であることから、納得感のある政策立案も困難でした。そのため、ある自治体で成功した施策を他の自治体に適用したい場合に、地域ごとの特性に対応した最適な政策に調整・設計することも容易ではありませんでした。これは、工学的な設計分野で進展しているデジタルエンジニアリングが、社会デザインでは未確立であることによります。
本研究開発課題では、リアルスケールの社会と住民のモデルを用いたデジタル社会実験基盤技術(SPD:Societal Prototyping Design)を開発し、産学官民が提案する政策案に対して、中長期的かつ多様な視点での可視化に基づいた高精度な事前評価を可能とすることを目指します。これにより、無関心層を含む多様な当事者が社会デザインに自分ごととして関われる、人間中心の社会共創デザイン手法を確立します。
探索研究では、AI技術を用いて模擬的な世帯構成員を日本全国に配置した合成人口データを作成し、エージェントベース社会シミュレーション(Agent-Based Social Simulation:ABSS)注)手法によってCOVID-19流行の抑制を目標としたさまざまな国家政策の評価・分析を行いました。この結果は実際の政策・施策で活用され、デジタル社会実験とその主要技術の一部の有効性が立証されました。
本格研究では、全国116の市町村の首長が参加するSmart Wellness City首長研究会(SWC:健幸都市)と連携して、政策決定のためのSPD基盤のプロトタイプ構築に取り組み、都市政策や街づくりを対象とし具体的な社会課題の解決を目標とします。技術的には、ABSS手法を拡張してステークホルダーとの共創のプロセスを取り込んだSPD基盤技術の開発、および同基盤を用いたデジタル社会実験の有効性検証を行います。この手法の有効性が立証されれば、自治体だけでなく産業界を含めた施策における精度や投資効率が飛躍的に向上します。また、ある自治体で成功した政策例を地理的・経済的な条件や制約の異なる他の自治体にも迅速・安価に横展開することも容易になります。その結果大きな経済効果を生み出し、人間中心の未来社会の実現に貢献することが期待されます。
注) エージェントベース社会シミュレーション:社会を構成する個人やグループをエージェントという自律した単位としてモデル化して動作させることで、その行動と相互作用がシミュレーションデータに与える影響を評価し、社会現象の理解や予測を行うこと。
https://www.jst.go.jp/mirai/jp/program/super-smart/JPMJMI23B1.html