原田の研究「持続可能な社会の実現に向けた社会シミュレーションのための人工社会の合成」が青山学院大学 2020年度SDGs関連研究補助制度に採択されました
Published in 青山学院大学 2020年度SDGs関連研究補助制度, 2020
近年,分析対象の社会現象を可能な限り忠実に再現し,政策の影響や将来の多様な状況を可視化する社会シミュレーションが実施され始めている.しかし,その数は限られている.これは,モデルの粒度を現実社会に近づけるほど,年齢や性別,居住地,所得など現実同様の個人の属性を用いたシミュレーションが期待されるが,現実の個人の属性は個人情報保護やプライバシーの観点から利活用が困難である.そのため,個人の属性の設定が社会シミュレーションに取り組む研究者の大きな負担となっている.
このような状況から,申請者は複数の統計表から得られるマクロな情報からミクロなエージェントの属性を合成する研究を実施している.現実の統計表をもとに生成した人工社会から,現実の統計表と同様の形式で人工統計表を作成し,現実の統計量と人工統計量との差を最小化している.この手法により年齢・性別・居住地・所得属性などをもつ日本全国1億人規模の人工社会を合成し,研究者へ提供している.しかし,従来手法では国勢調査結果の人口の90%を対象としていた.特に高齢になるほど対象人口がン減少し,100歳以上の人口ではおよそ30%しか対象とされていなかった.したがって,高齢者分析を対象とするシミュレーションを実施する場合,シミュレーション結果に留意する必要があった.
そこで,本研究では,国勢調査結果に掲載されているすべての人口を合成する手法を開発した.提案手法では合成対象を増加させたうえで,従来手法と同程度の計算時間かつ統計的特徴をもつ人口を合成することに成功した.
従来手法により合成された人口は研究者向けに無償で提供を開始している.このデータを用いたシミュレーション・分析としてCOVID-19や高齢者の社会参加予測,AED利活用促進に向けた施策の検討など,様々な分野で活用されている.提案手法による日本全国の人工合成ができ次第,研究者へ提供を予定しており,シミュレーション・分析の精度向上に貢献できる.